西淀川簡易裁判所 昭和38年(ろ)3号 判決 1963年6月22日
被告人 鏡原貞雄
昭一一・四・一二生 会社員
主文
被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人と負担とする。
理由
罪となるべき事実
被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和三七年一〇月一三日午後四時五〇分頃、普通乗用自動車(大五に第三三六九号)を運転して、大阪市西淀川区佃町六丁目二〇番地先阪神電車伝法線踏切を北より南へ通過するに際し、その直前において停止しなかつたものである。
証拠の標目(略)
被告人の主張に対する判断
被告人は、「自分は当時、前示踏切の軌道敷の手前約二メートルの箇所において、瞬時、即ち時間的に約一秒間停止し、安全であることを確認したから本件は罪とならない。」旨弁疏する。
当公判廷において、被告人は、「右踏切にさしかかつた際、その手前から踏切の左右がよく見え安全だと思われたので前示のように瞬時停止しその後該踏切を通過した。」旨供述し、一方、証人森岡靖雄は、「同証人は当時警察官として、右踏切より約三十余メートル南方の道端にある東亜道路大阪工業株式会社の門の付近で交通取締に当つていたところ、該踏切の手前から時速約五キロメートルで徐行してきたが、停止せずに踏切を通過し、南進してくる被告人操縦の自動車を発見したので、同人を検挙した。」旨証言している。
そこで右供述及び証言の両者を対比し、かつ、司法巡査作成の現認報告書の記載を併せて考察すると、被告人は、その供述のとおり、瞬間的に踏切の直前で停止し、しかる後に徐行して踏切を通過したが、右証人は、被告人の進行方向の殆んど真向いから被告人の該行動を見ていた関係から、その進行途上における僅か一秒間位いの瞬間的停止は、同証人にとつては判然たる停止とは認められず、単に徐行したとしか見えなかつたとも考えられ、この点は被告人も自認している。
ところで、被告人の弁解するように、踏切直前において瞬間的に停止したとしても、かような約一秒間という極めて短時間の停止は、道路交通法第三三条第一項にいうところの「停止」に該当するかというに、右法条は、踏切通過の車両等について、「踏切の直前で停止し、かつ、安全であることを確認した後でなければ進行してはならない。」と規定し、その目的とするところは、踏切における不測の衝突事故の発生(しかも、それはえてして大惨事を惹起し易い。)を防止せんとするにあることは多言を要しないところで、かかる事態の発生を防止するため該規定は、車両等の運転者に対し、踏切の直前においては、操縦に意を用いることなく厳に前方及び左右等を注視して、進行の安全を十分に確認するに足る程度の停止を要求している趣旨であることを窺うことができる。
してみると、一般的にいつても、前示のような、時間的に僅々約一秒間に止まる程度の瞬間的停止は、物理的には停止といい得ても、前掲の趣旨からいつて、そのような程度の停止では踏切通過の安全確認に欠けるところなきを保し難く、法律上の「停止」という訳にはいかない。いわんや前記現認報告書の記載によれば、右踏切はいわゆる第一種踏切で、比較的交通量多く、かつ、見通しもよくない箇所にあることが認められる本件においては尚更である。又被告人は、前記停止の前から踏切の左右がよく見えて安全を確認できたから、踏切直前での瞬時の停止でも安全確認には欠けるところがなかつた旨供述しているが、停止前に踏切の左右がよく見えて安全の確認をなし得たということは、踏切直前において全然停止しなくてもよいとか、停止時間が瞬間的でもよいとかいう理由にはならない。
いずれにしろ被告人の弁疏はその理由がない。
法令の適用
道路交通法第三三条第一項、第一一九条第一項第二号、刑法第一八条、刑事訴訟法第一八一条第一項本文
(裁判官 岩崎英夫)